東京地方裁判所 昭和32年(行)104号 判決
原告の主たる事務所が原告主張の場所にあることは当事者間に争がなく、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一号証によれば、原告はフランス国法に準拠して設立され、科学研究及び科学研究の助成等の業務に従事している法人であることが認められる。原告が本件特許出願をなし、被告が本件処分をしたことは当事者間に争がない。そこで被告の本件処分が違法かどうかにつき判断する。外国法人が特許出願をするときは法人証明書を提出しなければならないことは明らかであるが、本件特許出願に際し、原告が法人証明書を提出しなかつたこと、そこで被告が昭和三十一年五月一日付で原告に対し三ケ月以内に法人証明書を補充するよう指令したこと及び原告が右指定期間内に法人証明書を補充しなかつたことは、当事者間に争がない。原告は出願人が法人格を有するか否かは特許庁が職権で調査すべきところ、原告は特許庁に多くの特許出願をしており原告が法人格を有することは特許庁に顕著な事実であるから、原告が法人証明書を提出しないという理由で本件処分をしたことは違法であると主張する。
出願人が外国法人である場合、法人格を有するか否かは特許庁において職権で調査すべき事項であることは明らかであるが、その調査は個々の特許出願事件ごとにこれを調査すべきでありその認定資料は必ずしも特許庁において職権で収集しなければならないものではなく、特許法施行規則第七条第二項は出願人にその資料として法人証明書の提出をなすべき義務を課したものと解すべきである。そして他の出願事件により特許庁が出願人の法人格を有することを知り又は知りうる場合であつても特許法施行規則第九条第二項は他の事件について提出された法人証明書の謄本をもつて法人証明書の原本に代えることができるという便法を認めているだけで当該出願につき法人証明書の提出義務を免除していないことを考えると、指定期間内に法人証明書の原本を提出するか、或いは前記便法によりその補充をしない以上、手続の懈怠として出願無効の処分をなすことは何ら違法でないといわなければならない。よつて原告の右主張は理由がない。
次に原告は原告には補充行為の瑕疵があるだけで手続の懈怠はないと主張する。
昭和三十一年五月一日付の被告の補充指令が、一通の文書により委任状、譲渡証、法人証明書の補充を命じたものであることは当事者間に争がないが、右指令が一通の文書でなされたのは手続の便宜上なされたものと解すべきで、委任状、譲渡証、法人証明書の補充を各別に指令した場合と何ら差異はないと解すべきであり、前記当事者間に争のない事実によれば本件においては昭和三十一年五月一日付の法人証明書の補充指令に対し、指定期間内に原告はこれが補充をしていないのであるから、期間の懈怠があるものというべくしたがつて本件特許出願を無効とした被告の本件処分は何ら違法でない。よつて原告の右主張も理由がない。
〔編註〕 本判決に対する控訴は東京高等裁判所に昭和三三年(ネ)第二六九五号として係属したが、同三四年四月二八日に「原判決理由の記載を引用してこれを棄却すべきものとする」との判決により確定した。